【良い靴は重い】ってホント?今はそうでもない理由

【良い靴は重い】それってホント?

「良い靴は重いんでしょ?」こんなふうに聞かれることが時々ありますが、最近の靴にそれは当てはまりません。

この記事では、靴の重さについて説明したいと思います。

靴の重さについて知ることは、良い靴の見分け方のヒントになるはずです。

「良い靴=重い」は昔の話

「良い靴は重い」そういう風に言う人は年配の方に多いのですが、それには理由があります。

靴が今のように多種多様な素材で作られるようになったのは、それほど昔の話ではなく、更に、軽量でも良い素材ができてきたのは最近の話です。

革が軽くなった

靴に使われる素材の中で一番重いのがゴムですが、次に重いのは革です。

靴底の皮なら、良い革のことを「渋を喰ってる」なんて言ったりしました。

原材料の皮(原皮)を製品の素材としての革にすることを「なめす(鞣す)」と言います。

植物なめしと呼ばれる昔ながらのなめし方法では、タンニン(渋)を含んだ液に皮を漬け込むのですが、この時間が長いほど革になめし液がしみこみ、重くなります。

重い方が良い革となり、漬け込み時間が短いと、軽くてなめしの足りない質の悪い革となったのです。

ところが「なめし」技術の進歩により、軽量な革が作られるようになります。

特に、靴のアッパー(甲革)で使われる革は、軽くても強く、厚みがあっても軽く仕上げられるようになっていて「高級皮革=重い」ということもなくなったことが「良い靴=重い」とは言えなくなった一つの理由です。

良い靴には革が存分に使われていた

今のように多種多様な素材が使われるようになるより前、良い靴にはふんだんに良い革が使われ、使う素材を減らすことで価格の安い靴を作っていた頃では、持っただけでその靴の価値が測れたのでしょう。

アッパーにも厚くしっかりとした革を使い、靴底も、中底(インソール)本底(アウトソール)ヒール、全てを良い革を使うと、どうしてもかなりの重さになります。

過去形のように話しましたが、そういう完全な手仕事による靴作りは今も行われていて、この手仕事の技術は今、日本が最も盛んです。

かくいう私も、YouTubeで手製靴作りを紹介しています。

最も手間のかかる製法で、たくさんの革を使って作ることがよくわかると思います。

興味のある方は是非ご覧になってみて下さい。

足と靴の学校921 村山孝太郎
2023年11月に、多くの動画を一時的に限定公開に設定いたしました。今後の予定は未定です。東京の足と靴の学校921による、YouTube靴作り講座です。靴作りに興味はあるけれど、通える範囲に学校が無い方のために、靴作りの全工程を、時間の短縮編集をほとんどしないでお見せします。全ての工程について作業の目的、やり方、コツな...

安価で重い靴も増えた

靴の素材で最も重いのはゴムです。

例えば、分厚いゴムの底の靴なら、当然重くなりますが、それが良い靴かといえばそうとは限りません。

先に書いたように、軽くて質の良い革がなめされるようになり、質の良い革よりも、質の悪い革が重いことも当然ありえます。

これらもまた、重さが靴の良し悪しの指標にはならなくなっている理由です。

今は良い靴を軽くも重くも作れる

ここまででもお分かりの通り、現在では重さが靴の品質を見極める手段とはなりません。

それでも、自分に合った靴が重い靴なのか、軽い靴なのかを知れば、靴選びのヒントになるでしょう。

目的に合わせた素材選び

原皮の入手が困難になる中、革の質は低下していると言えるかもしれません。

一方で合皮の技術はどんどん良くなっています。

合皮は革よりも軽いですし、様々な機能を付加しやすいというメリットもあります。

一般的には合皮よりも革の方がありがたがられますが、1ミリ以下の合皮では、品質の悪い革を使うよりも断然良い場合もあります。

とはいえ、まだまだ革に及ばない点も多くあり、特に厚みという点においては違いが大きいです。

高級なマイクロファイバー素材では1.6ミリという厚みのものが出ていますが、同程度の厚みの高級皮革と比べると、靴素材としては勝負になりません。

ルッチェで2ミリ前後の革をオーダーメイドスニーカーのアッパーに使用しているのはそうした理由もあります。

軽量な革と重い革

なめし技術の進歩で軽量な革が作れるようになった一方で、重たくなったとしても、昔ながらの製法で作ることで出すことのできる良さもあります。

手間と材料を惜しまずに作られた革でのみ出せる雰囲気です。

素材の雰囲気が持つ本当の重厚感を求めるのか、そういう雰囲気だけど実際には軽い靴の方が良いのか、重厚な雰囲気の重い靴を作ることも、重厚な雰囲気の軽い靴を作ることも可能な現在では、どちらが良い靴とは一概に言えなくなています。

製法によって変わる重さの違い

靴にはたくさんの製法があります。

製法によっても重さが大きく変わります。

先に紹介したような手製の製法による靴で、革をたくさん重ねれば重くなりますし、様々な素材をたくさん重ねても、軽量な素材の組み合わせで作る事ができる製法であれば、軽くすることも可能です。

製法による重さの違いがあるということは、素材の雰囲気や見た目、強度や弾力性、クッション性など、好みの要素を備えた靴も、製法の違いによって、好みの重さの靴が見つけることができるかもしれません。

重い靴の悪い所

重い

重い靴のデメリットは、そのままですが重いということです。

ある程度の重さはあったほうが歩きやすい場合が多いですが、あまりに重いと、長く歩いていくと負担になってしまいます。

硬くなりがち

重たい素材は硬いことが多いです。

ただ単に重たくしたいという人は少ないでしょうが、重い靴は硬い靴である可能性が高いです。

重い靴の良い所

耐久性が高い

しっかりとした素材は重くなることは何度か触れました。

そのため、耐久性が高く、堅牢な靴になることがとても多いです。

以前に、日常の靴を重くしてトレーニングをしたいというご要望を受け、靴の中に鉛で重しを仕込んで作ったことがあります。

片足に500gくらいの鉛を入れましたが、この靴は耐久性としては逆に下がってしまったかもしれません。

雰囲気

重たい素材にしか出せない雰囲気があります。

先ほど触れましたが、軽い素材で見た目を似せることは出来ますが、それは新品のうちだけでしょう。

履き込んでゆくと、雰囲気には差が出てきます。

オーダーメイドスニーカーで考える、良い靴の重さ

ルッチェのオーダーメイドスニーカーでは、素材の組み合わせを自由に変える事ができます。

例えば、クッション性の良い素材を使いたいと考えた時、体力や体重によって素材を使い分けますから、それによって出来上がった靴の重さも変わります。

つまり、良い靴の重さは、目的に合わせて素材を選んだ結果出来上がった靴の重さになるわけです。

それこそが現代で出来る、最高に良い靴の重さと言えるでしょう。